「旅のつれづれにひもとけば,ヨーロッパ中世の祈りと造形が,新たな感覚で蘇る.」 こんなカバー帯に誘われ,手にした本が「中世祈りの造形(かたち)」(山崎脩著).フランス,スペイン,ポルトガルに建てられた数々の教会を写真と文章で簡潔に紹介した本である.そっと,おもて表紙をめくり,目次のページを開くと,四つの章のタイトルが・・・,
「一 初めに石ありき」 「二 祈りは石に滲みた・・・ロマネスク」「三 祈りは石と共に昇華した・・・ゴシック」 「四祈りは混淆しながらも残った」.
目次だけでも思わず生唾もの.
著者の略歴欄には「彫刻家・京都市立芸術大学名誉教授とあり,調査歴として,同大学の美術工芸調査隊員・文部省在外研究員として宗教遺跡,建造物等の実態調査と写真撮影に参加」となっている.
著者の確かな感性によって写し撮られた180枚のカラー写真は,とても美しく,見ているだけでも楽しい.独特のカメラアングルや,教会の重要な要素である光と蔭のとらえ方,教会のディテール部分のねらいどころからは,紹介されている著者の略歴以上のものを感じさせてくれる.
また,著者の深い思索に裏付けられた,簡潔で洗練された文章は,読者を中世ヨーロッパの祈りの世界へと導き,さらに希薄になってしまった日本人の宗教観に迫ってくる.
素材に関する記述は,いかにも美術家らしく,石についても,素材として素直に見据えている.特に,石を重く厚く積まれロマネスク建築,ロマネスクとは石そのものだと言い切り,建築を装う彫刻にしても石という素材感を損なわない範囲でのかかわりかたに,好感をもって当時の石工たちを思いやる著者の心持ちがうれしい.
一方,ゴシック建築に対しては,「神を見ようとした空間は素材(石)の慈悲さえ拒否して,非物質的の中に傾倒していく.これが,より高いシンボルをも確実に実現していくが,逆に空しく形骸化を招いていっているのではないか」と鋭く指摘し,現代の石使い,あるいはそれに携わる我々の意識にまで警鐘を鳴らしているように思えた.
■本のデータ■
・書籍名・著者 中世 祈りの造形(かたち)
/ 山崎
脩
・発行所・価格 東邦出版(株)
/ 2,575円
・体裁・発行年 B5 142ページ
/ 1996年
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