陰りがさしたとは言え,最近の出版ブーム,おびただしい種類と量の出版物が世に送り出されています.そんな中で「石」をなりわいにしている私たちにとって,ちょっと気になる本,気にしていただきたい本をご紹介していきたいと思います.時には個人的な趣向になるかも知れませんが,ご愛嬌と受け止めていただき,お付き合いをお願いいたします.
最初のご紹介は「石屋史の旅」(渡辺益国著).兵庫県尼崎の石屋の家に生まれ,コピーライターの職業経験を持つ著者が,15年来,あたためづづけた石屋への思いを,6年の歳月をかけ,各地の石材産地や会社を直接訪問し,古老の対話を通して書き記した好書.石屋業界や業界にかかわる人々に対して,著者自身のあたたかい眼差しがジーンと伝わってくる.内容は稲田・真壁,岡崎,庵治,北木をはじめとした全国の主な石材産地の生い立ち,エピソード,苦労話,昔話を著者の感想を交えながら記してある.
それぞれの産地で使われてきた道具類や昔の珍しい写真,現在に残る石材関係資料なども丹念に盛り込まれていて,石屋業界の貴重な資料としても大いに価値ある一冊となっている.
長年,石屋として実際に生きてきた方のそれぞれの話はいずれも実感がこもっており,真剣に石の仕事に打ち込んでいたことが分かる.今みたいに何でもかんでも揃うような便利な時代ではなかった分,本気で石に向かわなければ成り立たなかったのかも知れない.現在から見れば不自由と思えるそんな状況でも,石屋ならではの知恵や気概や思いやりに包まれ,結構意気揚々とくらしていたように思える.
現在もご活躍中の方のインタビューも興味深く,本誌の松井記者の写真も若々しい.中国材を右から左で,これが石材業界だと思われている方には,ぜひ読んでいただきたい本.石材業界にまだ未来があり,夢を語り合えた,ほんの少し前の石屋の記録集である.
■本のデータ■
・書籍名・著者 石屋史の旅
/ 渡辺益国
・発行所・価格 渡辺石彫事務所
/ 3,800円
・体裁 B5版ハードカバー
392ページ / 1987年
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